「この業務、〇〇さんしかやり方が分からない…」
「業務改善を進めたいけど、どこから手をつければいいか見当もつかない」
「新入社員や異動者への業務引き継ぎに毎回時間がかかっている」
このようなお悩みはありませんか? 社内の業務が特定の担当者に依存する「属人化」や、業務の全体像が見えない「ブラックボックス化」は、多くの企業が抱える課題です。
これらの課題を解決し、業務改善を力強く推進する第一歩が、「業務棚卸表(ぎょうむたなおろしひょう)」の作成です。
本記事では、共有しやすく、関数や自動化との連携も得意なGoogleスプレッドシートを使って、実用的な業務棚卸表を作成する方法を解説します。すぐに使えるテンプレートもご用意しましたので、ぜひご活用ください。
この記事を読み終える頃には、自社の業務を「見える化」し、効率化への道を切り拓くための具体的な手法を身につけているはずです。
なぜ今「業務棚卸表」が業務改善の鍵となるのか?
まずはじめに、「業務棚卸表」とは何か、そしてなぜそれが業務改善に不可欠なのかをご説明します。
業務棚卸表(業務一覧管理表)とは、社内に存在するすべての業務を一つひとつ洗い出し、その内容、担当者、業務にかかる時間(工数)、頻度などを一覧にまとめた管理表のことです。
この表を作成することで、これまで個々の担当者の頭の中にしかなかった業務情報が、組織全体の共有資産へと変わります。これにより、主に3つの大きなメリットが生まれます。
メリット1:業務の「属人化」を防ぎ、標準化への道を開く
特定の担当者しか知らない業務は、その担当者が不在になった際に業務が滞るリスクを常に抱えています。
業務棚卸表を作成し、「誰が」「何を」「どのように」行っているかを一覧にすることで、業務内容がオープンになります。これにより、担当者が急に休んだ場合でも他の人がカバーしやすくなったり、業務の引き継ぎがスムーズに進んだりします。さらには、業務手順を標準化し、マニュアルを作成するきっかけにもなります。
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洗い出した業務の具体的な手順を可視化するには、業務フロー図の作成が効果的です。詳しくは、こちらの記事で解説しています。
メリット2:業務改善のボトルネックを的確に発見できる
「何となく、この作業に時間がかかっている気がする…」といった曖昧な感覚ではなく、データに基づいて改善点を探せるようになります。
業務棚卸表で各業務の工数や頻度を可視化すると、「想定以上に時間がかかっている業務」や「頻繁に発生する単純作業」などが一目瞭然になります。これらは、手順の見直しやツールの導入によって効率化できる可能性が高い、いわば“改善の宝の山”です。
メリット3:データに基づいた適材適所の人員配置に役立つ
各担当者がどれくらいの業務量を抱えているのか、どんなスキルを要する業務を担当しているのかを客観的に把握できます。
これにより、一部の従業員に業務負荷が偏っている状況を解消したり、各々の得意分野を活かせるような業務分担に見直したりと、データに基づいた最適な人員配置の検討が可能になります。
実践!業務棚卸表の作成ガイド
それでは、実際にGoogleスプレッドシートで業務棚卸表を作成していきましょう。
なぜExcelではなくGoogleスプレッドシート?
Excelも優れたツールですが、業務棚卸表のように複数人で情報を共有・更新していく用途では、Googleスプレッドシートに分があります。
- リアルタイムでの共有・同時編集が簡単:URLを共有するだけで、関係者全員がいつでも最新の情報にアクセスし、同時に編集できます。
- クラウド上で管理:「ファイルはどこだっけ?」と探す必要がなく、バージョン管理も容易です。
- 関数や拡張機能との連携:この記事で後述する便利な関数などを活用できます。
テンプレートの使い方
まずは、こちらからテンプレートのリンクを開き、ご自身のGoogleドライブに保存してください。
左下の「コピーを作成」を選択すれば、編集可能なファイルが作成されます。

テンプレートの構成:「業務一覧」「設定」「業務分析」シート
このテンプレートは、3つのシートで構成されています。
- 業務一覧シート: 実際に業務内容を書き出していくメインのシートです。
- 設定シート: 「担当部署」や「業務頻度」などの項目で使う選択肢(プルダウンリストの中身)を管理するためのシートです。部署名や担当者が増えた場合も、「設定」シートを編集するだけで簡単に入力候補を更新でき、管理がしやすくなります。
- 業務分析シート: 「業務一覧」シートに入力したデータを自動で集計し、担当者別・部署別の工数を可視化するためのシートです。
業務棚卸表の必須項目と入力例
テンプレートには、業務を棚卸しする上で基本となる項目を用意しました。実際の法人業務を想定した入力例とともに、各項目を見ていきましょう。
項目名 | 説明 | 入力例 |
大分類 | 業務のカテゴリ。総務、経理、人事など。 | 経理 |
中分類 | 大分類をさらに細分化したカテゴリ。 | 請求関連 |
業務内容 | 具体的な作業内容を簡潔に記載。 | 取引先への請求書発行およびメール送付 |
担当部署 | その業務の主担当となる部署。 | 経理部 |
担当者名 | 主担当者の氏名。 | 鈴木 一郎 |
業務頻度 | その業務が発生する頻度。 | 月次 |
業務工数(h/回) | 1回あたりの業務にかかる時間。 | 0.5 |
マニュアル有無 | 作業手順書があるかどうか。 | あり |
使用ツール | 業務で使用するソフトウェアやシステム。 | 会計ソフトA, Gmail |
最終更新日 | この行の情報を最後に更新した日付。 | 2025/09/30 |
備考 | 業務の繁閑期や注意点など、補足情報。 | 毎月25日~月末に作業が集中する |

まずは部署やチーム内で、思いつく限りの業務をこの表に書き出すことから始めてみましょう。
関数でもっと便利に!データの入力と分析を効率化
手入力だけでは、表記の揺らぎが起きたり、入力が手間になったりします。ここでは、スプレッドシートの関数を使って、より効率的に、そして正確にデータを管理する方法をご紹介します。
「入力規則」で表記の揺れを防ぎ、入力をスピードアップ
「担当部署」や「業務頻度」といった項目は、入力する人によって「経理部」「経理」のように表記が異なってしまうことがあります。これを防ぎ、入力を効率化するのが「データの入力規則」機能です。
このテンプレートでは、「設定」シートにあらかじめ用意したリストを読み込む設定になっています。
- 入力規則を設定したいセル範囲(例:「業務一覧」シートのA列)を選択します。
- メニューの「データ」>「データの入力規則」をクリックします。
- 「条件」を「プルダウン(範囲内)」にし、入力欄に「設定」シートの該当するリスト範囲(例:’設定’!$A$2:$A)を指定します。
こうすることで、「設定」シートのリストがプルダウンメニューとして表示されるようになります。

「最終更新日」をカレンダーで簡単入力
情報の鮮度を保つために重要な「最終更新日」も、入力規則を使えば簡単に入力できます。
日付を入力したいセル範囲を選択し、「データ」>「データの入力規則」を開きます。「条件」で「有効な日付」を選択して保存するだけです。
設定したセルをダブルクリックするとカレンダーが表示され、クリック一つで日付を入力できるようになります。これにより、入力の手間が省けるだけでなく、2025/9/30や2025-09-30といった表記の揺れも防げます。

「SUMIF関数」で担当者別の業務量を可視化する
業務の洗い出しが終わったら、次は分析です。テンプレートでは「業務分析」シートで分析ができます。
例えば、「誰にどれくらいの業務が集中しているのか」を把握したい場合、SUMIF(サムイフ)関数が役立ちます。
以下の関数は、「業務一覧シートのE列(担当者名)がB2セルの名前と一致する場合に、G列(業務工数)の数値を合計する」という意味です。
=SUMIF(
'業務一覧'!E:E,
B2,
'業務一覧'!G:G
)

「QUERY関数」で部署ごとの業務量を集計する
さらに柔軟なデータ集計・分析を行いたい場合は、QUERY(クエリ)関数が非常に強力です。SQLというデータベース言語に似た形式で、スプレッドシートのデータを自由自在に抽出・集計できます。
例えば、部署ごとの合計工数を算出したい場合は、以下のように記述します。
=QUERY(
'業務一覧'!A:K,
"SELECT D, SUM(G) WHERE D IS NOT NULL GROUP BY D LABEL SUM(G) '合計工数'",
1
)
これは、「業務一覧シートのA列からK列のデータ範囲について、D列(担当部署)ごとにG列(業務工数)を合計しなさい」という命令です。SUMIF関数よりも複雑な条件での集計も可能ですので、もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

まとめ:業務の見える化から、改善のサイクルを回そう
本記事では、Googleスプレッドシートを使った業務棚卸表の作成方法から、関数を活用した効率的な運用方法までを解説しました。
業務棚卸表の作成は、業務改善における強力な第一歩です。しかし、最も重要なのは、この表を使って「改善のサイクル」を回し続けることです。
- 洗い出す(Plan): まずは現状の業務をすべて書き出す。
- 分析する(Do): 関数などを使い、工数や負荷を分析し、課題を発見する。
- 改善する(Check): 無駄な業務の廃止、手順の簡略化、ツールの導入などを検討・実行する。
- 見直す(Action): 改善後、再び棚卸表を更新し、効果を測定する。
このサイクルを継続することで、組織の生産性は着実に向上していくはずです。
まずは本記事のテンプレートをコピーし、あなたのチームの業務を洗い出すところから始めてみませんか? きっと、これまで見えていなかった改善のヒントが、そこには眠っているはずです。
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