「毎月の発注業務、手作業での入力や転記に時間がかかっている…」
「品番や金額の入力ミスが起きてしまい、手戻りが発生する…」
「過去の発注履歴を探すのが大変…」
このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
日々の業務で発生する発注書(注文書)の作成は、正確性が求められる一方で、繰り返し作業が多く負担になりがちです。
この記事では、Googleスプレッドシートを活用して、発注書と発注請書の作成を自動化し、これらの課題を解決する方法を具体的かつ分かりやすく解説します。特別なツールを導入する必要はありません。普段お使いのスプレッドシートだけで、驚くほど業務が効率化できます。
この記事で実現できること
最終的に、以下のような仕組みを構築します。
- 「取引先マスタ」シートに取引先の情報を登録しておく。
- 「管理表」シートに「取引先ID」と発注内容を入力する。
- 「発注書」シートで管理表に付けた「発注ID」をプルダウンから選ぶ。
- それだけで、取引先情報や発注内容が自動で反映された発注書が完成する。
- 完成した発注書を、必要な部分だけきれいにPDF化できる。

準備編:自動化の土台となる3つのシートを作成しよう
まずは、自動化の心臓部となる「取引先マスタ」「管理表」と、出力フォーマットである「発注書テンプレート」の3つを作成します。
1. 取引先情報を一元管理する「取引先マスタ」シート
まず、取引先の「会社名」「住所」「電話番号」といった固定情報を管理するためのマスタデータシートを作成します。ここに情報をまとめておくことで、入力の手間を省き、表記ゆれを防ぎます。
【作成手順】
新しいスプレッドシートを作成し、シート名を「取引先マスタ」に変更します。
1行目(ヘッダー)に、以下のような項目を設定しましょう。
A列 | B列 | C列 | D列 |
取引先ID | 会社名 | 住所 | 担当部署 |

ポイント:
- 取引先ID: 各取引先を一意に識別するための番号です。CL-001のように、自社で管理しやすいルールで設定しましょう。
2. 発注データを一元管理する「管理表」シート
次に、日々の発注に関するすべての情報をこのシートに集約します。後から「いつ、どこに、何を、いくらで」発注したかを確認するためのデータベースの役割を果たします。
【作成手順】
新しいシートを追加し、シート名を「管理表」に変更します。
1行目(ヘッダー)に、以下のような項目を設定しましょう。
A列 | B列 | C列 | D列 | E列 | F列 | G列 | H列 |
発注ID | 発注日 | 取引先ID | 品名 | 単価 | 数量 | 小計 | 備考 |

ポイント:
- 取引先ID: C列に「取引先マスタ」で設定したIDを入力します。
- 小計: E列 * F列 のように、あらかじめ計算式(=E2*F2など)を入れておくと入力が楽になります。
3. 印刷・送付用の「発注書」テンプレートシート
最後に、取引先へ提出する発注書(注文書)のひな形を作成します。
新しいシートを追加し、名前を「発注書」に変更してください。
一般的な発注書のレイアウトを参考に、セルの結合や罫線を使いながら帳票を作成します。

レイアウト例:
- ヘッダー部分: 「発注書」というタイトル、発注ID、発行日
- 宛先部分: 取引先会社名、住所、担当部署、御中
- 自社情報部分: 会社名、住所、電話番号、担当者名
- 金額表示部分: 合計金額
- 明細部分: 品名、単価、数量、金額のテーブル
- フッター部分: 備考欄、捺印欄
この段階では、まだデータは空白の状態です。次のステップで、このテンプレートに「管理表」と「取引先マスタ」のデータを自動で流し込んでいきます。
実践編①:関数を使って管理表からデータを自動転記
ここからが本番です。関数を使い、「発注ID」を選ぶだけで必要な情報が自動で入力されるように設定していきます。
STEP1: 発注書に「発注ID」を選択するプルダウンを作成する
手入力によるミスを防ぎ、操作を簡単にするために、発注書シートに「発注ID」を選択できるプルダウンリストを設置します。
- 発注書シートの「発注ID」を表示させたいセル(例:G1セル)を選択します。
- メニューから「データ」→「データの入力規則」をクリックします。
- 「条件」のプルダウンから「プルダウン(範囲内)」を選択します。
- 右側の入力欄に、管理表シートの「発注ID」が入力されている列(’管理表’!A2:A)を指定します。
- 「保存」をクリックします。

これで、発注書シートのG1セルにプルダウンが表示され、管理表に記載されている発注IDを選択できるようになりました。
STEP2: VLOOKUP関数で取引先情報などを転記する
次に、プルダウンで選択した「発注ID」をキーにして、各シートから情報を探し出し、自動で転記します。ここでは VLOOKUP関数 を使って、2段階でデータを取得します。
【第1段階】 発注書に「取引先ID」と「発注日」を転記する
まず、選択した「発注ID」をもとに、「管理表」シートから「取引先ID」と「発注日」を取得します。
※VLOOKUP関数の基本的な使い方や、より詳しい活用法については、こちらの記事で解説しています。
発注書の「発注日」を表示させたいセルに、以下の関数を入力します。
=VLOOKUP(
G1,
管理表!A:H,
2,
FALSE
)

同様に、「取引先ID」も取得しますが、これは発注書には表示させず、裏側でデータ連携に使うため、印刷範囲外のセル(例:I1セル)に以下数式を入れておくと良いでしょう。
=VLOOKUP(G1, 管理表!A:H, 3, FALSE)

【第2段階】 「取引先ID」を使って取引先情報を転記する
次に、I1セルに取得した「取引先ID」をキーにして、「取引先マスタ」シートから「会社名」や「住所」を転記します。
発注書の「宛先(会社名)」を表示させたいセルに、以下の関数を入力します。
=VLOOKUP(
I1,
'取引先マスタ'!A:D,
2,
FALSE
)

同じ要領で、「住所」は3番目の列、「担当部署」は4番目の列、というように数字を変えるだけで、必要な情報をすべて自動で転記できます。
STEP3: FILTER関数で明細データをまとめて転記する
VLOOKUP関数は基本的に1つのデータしか見つけられません。PO-001のように複数の品目がある明細をすべて表示させたい場合は、FILTER関数 を使います。
発注書の明細を表示させたい範囲の一番左上のセルに、以下の関数を入力します。
=FILTER(
管理表!D:G,
管理表!A:A=G1
)
この数式一つで、条件に合う明細が複数行あってもすべて自動で表示してくれます。

最後に、合計金額欄に SUM関数 を使って明細の合計を計算すれば、発注書(注文書)の自動作成機能は完成です!
実践編②:「発注請書」も効率的に作成しよう
発注書(注文書)を送付した後は、受注側から「その内容で承諾しました」という意思表示として「発注請書」を受け取るのが一般的です。この発注請書の作成についても、2つのパターンで効率化を考えてみましょう。
パターン1:受注者が「発注請書」を作成する
本来の商習慣では、発注者から受け取った「発注書」に基づき、受注者が内容を承諾した証として「発注請書」を作成・返送します。
このフローを効率化するために、発注書を送る際に、今回作成したスプレッドシートの「発注請書」テンプレートシートを共有したり、Excel形式でダウンロードして送付したりする方法が考えられます。受注者側はゼロから書類を作成する手間が省け、発注者側もフォーマットが統一されるメリットがあります。
パターン2:発注者が「発注請書」を作成する
より効率化を重視し、発注者が「発注書」と同時に「発注請書」も作成して送付する方法も実務ではよく用いられます。受注者は内容を確認し、捺印して返送するだけなので、双方の事務作業を大幅に削減できます。
この記事で作成した仕組みは、こちらのパターン2を簡単に実現できます。
- 完成した「発注書」シートのタブを右クリックし、「コピーを作成」を選択します。
- 新しくできたシートの名前を「発注請書」に変更します。
- タイトルを「発注書」から「発注請書」に修正します。
- 「下記の通り発注(注文)いたします。」といった文言を、「下記の通りご注文を確かに承りました。」などに変更します。
これだけで、発注書と完全に連動した発注請書も同時に作成できます。
完成:発注書をPDF形式で保存する
関数が設定できたら、最後は完成した発注書をPDFとして出力します。数式が入っているI1セルのような不要な部分を含めずに、きれいにPDF化する方法を解説します。
STEP1: 印刷したい範囲を選択する
まず、PDFにしたい「発注書」の範囲をマウスでドラッグして選択します。このとき、関数を裏で動かすために使っているI1セルのような、帳票の外にあるセルは含めないように注意してください。

STEP2: 印刷設定画面を開く
範囲を選択した状態で、メニューから「ファイル」→「ダウンロード」→「PDF(.pdf)」をクリックします。

STEP3: PDF用の印刷設定を行う
右側に印刷設定のパネルが表示されます。以下のように設定すると、帳票がきれいに収まります。
- 印刷対象: 選択中のセル を選択します。(最重要!)
- 用紙サイズ: A4
- ページの向き: 縦
- スケール: 幅に合わせる
- 余白: 標準
- フォーマット > ヘッダーとフッター: 不要なチェックはすべて外します。
- フォーマット > オプション: 「グリッド線を表示」のチェックを外します。

STEP4: PDFとして保存する
右上の「次へ」ボタンをクリックすると、お使いのPCの印刷ダイアログが表示されます。 送信先(プリンター)の一覧から「PDFとして保存」や「Microsoft Print to PDF」などを選択し、「保存」ボタンを押せば、指定した場所にPDFファイルが作成されます。
まとめ
今回は、Googleスプレッドシートの関数を使って、日々の発注業務を自動化する方法をご紹介しました。
- 取引先マスタで取引先情報を一元管理
- 管理表で日々の取引データを蓄積
- VLOOKUP関数やFILTER関数で2つのシートからデータを自動転記
- 印刷範囲を指定することで、きれいなPDFを出力
この仕組みを導入することで、手作業による入力ミスを劇的に減らし、書類作成にかかる時間を大幅に短縮できます。また、データが管理表に蓄積されていくため、過去の取引履歴の確認も容易になります。
特別な機能は使わず、基本的な関数と印刷設定だけで実現できます。まずはご自身の業務に合わせて3つのシートを作成するところから、ぜひ試してみてください。この小さな一歩が、日々の業務を大きく改善するきっかけになるはずです。
※Googleサービスは、Google LLC の商標であり、この記事はGoogleによって承認されたり、Google と提携したりするものではありません。